リングタップ BReIN

 こちらのページ「急性外傷に対するタッチング」でも解説しているとおり、タッチングは慢性痛のみならず急性痛にも驚くべき効果を発揮します。

 BReINの中の一つ「リングタップ」は痛みをはじめ様々な症状に使われるタッチング系の技術ですが、なんと“犬のてんかん”にも効果を認めました(ページ上部の写真はその実際の場面)。

 飼い主の方も驚いていましたが、それ以上に当の術者本人(筆者)もびっくり…。

 人のてんかんに効果があるのは分かっていたのですが、まさか動物のてんかん、それも「これ以上発作が続くと命に関わる」と獣医から告げられていた重症例のワンちゃんを回復させるとは!

 飼い主の方いわく、1年におよんだ施術が終了した後もずっと発作は起きていないそうです。

 人の手による触覚刺激が、なぜこのように信じられないほどの効果を現すのでしょう?その理由を探るべく認知科学での検証が既に進められています。

 可能性として最も考えられるメカニズムは引き込み(エントレインメント)と呼ばれるものです。これは外部からのリズミカルな刺激入力が脳の神経回路改変に繋がる現象を指します。

 例えばパーキンソン病の患者さんにメトロノームの音を聴かせながら歩いてもらうと、すくみ足が改善して正常に歩けるようになったり、駆け足の遅い子供にメトロノームの音を聴かせながら走らせると、走りのフォームが改善しタイムが向上したりします。

 こうした事例以外でも、引き込み(エントレインメント)は様々な領域で実験や検証が進んでおり、人間の脳は無意識のうちに様々な信号を取り込んでいることが分かっています。

 デフォルト・モード・ネットワークの研究で有名な、映画を観ている観衆のまばたきが同期する現象についても、引き込み(エントレインメント)が関わっていると言われています。

 引き込み(エントレインメント)は視覚や聴覚のみならず、触覚でも起き得ることを端的に示しているのが、タッピングです。東日本大震災の避難所で、ボランティアの方々が被災者にタッピングを施すことで心身を癒したことがニュースになりましたが、世界中でタッピングによる効果が報告されています。

 
 BReINにおけるリングタップは、種々あるタッチングのなかでも、極めて微小な刺激入力であり、間接的なタッピング技術の一つだと言えます。

 指先による「トントントン」という明確なタッピングではなく、微かに感じられる程度のタッピングですが、触覚の引き込み(エントレインメント)においては刺激の強さを抑えたほうがより効果的であるというのが、当会の考えです。

 その根拠の一つに、皮膚への刺激強度と自律神経の関係性があります。強い指圧や強刺激のマッサージをすると、交感神経が興奮する傾向があるのに対し、より弱い刺激(たとえば軽く撫でるだけの優しいマッサージやタッチング)では副交感神経が高まる傾向があります。

 筆者の臨床現場では、あらゆる症例に対して自律神経の検査をルーチンに行っていますが、その臨床データを解析した結果、できる限り刺激量を抑えたほうが自律神経のバランスが回復しやすいことが分かっています。

 ヒトや犬のてんかんが、リングタップのような極微の刺激で回復する理由は、引き込み(エントレインメント)、確率共振(別の機会に詳述します)など複数の要因に加え、クロスモーダル効果も大きな役割を果たしていると推論されます。

クロスモーダル効果とは?

異種感覚の相互作用によって起こる錯覚です。例えば赤ワインを白く着色してテイスティングすると、専門家でも間違ってしまう(味覚が狂ってしまう)現象やマガーク効果(唇の動きと音声がミスマッチした動画を見ると、人は視覚を優先させて違う音に聴こえてしまう)などが有名です。

 近年、共感覚やクロスモーダル効果(クロスモダリティ)の研究により、人間の五感はそれぞれが個別に働いているわけではなく、互いに密接に関わり合いながら機能していることが分かっています。

 
 医療においては、筆者が開発したミラータッチング(鏡像認知における触覚と視覚のズレを利用した施術)も触視覚クロスモーダル効果を利用したものであり、冒頭で紹介した急性痛へのタッチングもまた触痛覚クロスモーダル効果の一例と言えます。

 人間の脳は同時に多種類の感覚が入ってくると、優先順位をつけることによって情報の入力を取捨選択します。痛みと触覚に対して、ヒトの脳は触覚を優先させるようにプログラミングされています。

 そのため痛む場所にタッチすると痛みが和らぐのです。これが触痛覚クロスモーダル効果です。

 「さわる、ふれる」という一見何でもなさそうな、ありふれた行為に意外なほどの除痛効果が潜んでいることは、オキシトシン研究の先進国スウェーデンでは既に常識であり、多くの医療介護福祉の現場でタッチングが行われています。

 しかし日本では医療現場に普及されておらず、そもそもタッチングの効果が認知されていないため、見た目の立派な医療機器や注射、くすりのように“分かりやすい”療法に目が向きやすいのが現状…。

 そのような中、NHKの「チコちゃんに叱られる」でタッチングの効果や胎内記憶による癒し効果が紹介され、少しずつではありますが一般の方々への認知が広まってきたように感じます。

 是非とも下の動画をご視聴ください(3分ちょっとの動画です)。

認知科学統合アプローチ(COSIA)に興味のある方へ

認知科学統合アプローチ(COSIA)は「認知科学と医療の融合」を表す概念であり、その起源は運動器プライマリケアにおける疼痛管理にあります。

画像ラベリングと痛みの原因診断が乖離する現状において、世界疼痛学会(IASP)は痛みの定義を改訂し、「痛みの感情起源説」にシフトしています。

COSIAに興味のある方は是非一度「医療者・セラピスト専用サイト」にお越しください。貴殿のご参画をお待ちしております。